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僕が僕を殺した理由

第2章 。


 
僕とタケはカウンターの一番奥の席を陣取り、場違いな程に静かな会話を繰り返していた。

時折、店の女の子が声を掛けて来るが、僕の事を熟知しているタケは気を利かせてか、あまり長居をされないようにと仕向けているようにも見えた。僕の知る調子の良さが、そこにはない。


「いつもこんなに煩いのか?」


声が届くようにと、僕はタケの耳に顔を近付ける。


「いんや。いつもはもっと静かだよ。世の中、なんか、ハッピーな事でもあったんじゃね?」


タケの苦笑いが、その顔に浮かんだ。
 
僕とタケは高校以来の付き合いだった。

その第一印象は最悪で、入学早々の茶髪と変形させた制服が僕の度肝を抜いた。そのいでたちに僕には絶対に馴染めない人種だと決めつけ、近づく事を避けていた記憶がある。が、それはタケも同じだったようで、重なり合う視線を外すのはいつもタケの方が先だった。

そんな僕達を近付けたのは、入学して初めての学校行事である文化祭だっただろうか。運悪く同じ役目を任されてしまった僕達は、嫌でも言葉を交わさなければならない環境に置かれてしまったのだ。

しかし話をしてみると意外にも気さくな奴で、すぐに打ち解ける事が出来た記憶もある。それが僕とタケの繋がりの始まりだろう。

高校卒業後は違う大学さえ選んだが、就職と共に互いがまたこの土地に帰って来た。それも勿論、タケだけに言える事で、僕はと言えば世間の荒波に乗りきれず、逃げ帰ってきたと言った方が妥当かも知れない。今でも僕は、無駄に歳だけを重ねてしまった成長しきれない大人でしかないのだろう。

そして、この春でタケとの付き合いも十二年目に入る。が、ここ数年に至ってはその付き合いも疎遠になりつつあった。途切れ途切れの会話はそれを印象付け、四年前のあの日、大切な何かを失ってしまった事実を僕に知らせているようだった。


「最近、変わった事はないのか?」


ガスが完全に抜けてしまっているのか、タケは火の点かないライターをカチカチと幾度となく鳴らしている。僕は無言でジッポライターを差し出し、「何も変わらないよ」とだけ答えるに留まった。

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