コケティッシュ・ドール
第1章 気になる隣人
「すみません…」
頭を低くして通りすぎようとすると、物凄い力で腕を掴まれた。
心臓が止まるかと思った。
「………」
無言で詰め寄られ、無意識のうちに後ずさりしてしまった。
アパートの壁に背中が当たる。
逃げられない。
彼は鋭い目つきで睨んでくる。
やだ、怖い、誰か…。
私の右腕を掴む手に、更に力が加わった。
「送って、行きます」
「…え」
「職場まで」
全く意味がわからない。
職場まで?送って行く?
「最近ひったくりとか多いですし…」
「あの…」
「はい?」
「手、手を…離して…」
彼はあっと声を上げ、手を離した。
「すみません…」
「い、いえ…」