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秘密中毒

第13章 目撃



感情のままに走っても、すぐに息が切れる。

思った通り、あの人は追いかけてこない。

今はそのほうがありがたかった。



買い物に行くときのサンダルのまま、あたしは走るのをやめてとぼとぼと歩きだした。


頭がごちゃごちゃして、何から考えればいいのかわからない。


それでも息が整うと、あたしはこれまでのことを振り返っていた。


あの人はあたしとの関係から逃げていたけど、ちゃんと前を見て、希望の職に就こうとしていた。

そして今日、ついてきてほしいって言った。


あたしはあの人との壁が悲しくて卓也さんに逃げて。子どもが持てないつらさから、保育士の仕事もあきらめて。

あの人と離れる勇気もなく、どうしていいかわからなかった。


「でも、あたしが要らなくなったんじゃなかったんだ……」

そのことにまた涙があふれた。
自分の浅はかさを思って。それからあの人の不器用さを思って。

だけどあんまりにも遅すぎるよ。
あんまりにもあたしに秘密にしすぎじゃないの?


足は自然に通勤に使う道を進み、駅に近づいていた。

まばらだけど人通りもある。

泣いたままで駅前の明るい通りに出たくなくて、
あたしは近くの公園に足を踏み入れた。


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