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秘密中毒

第13章 目撃



…………
…………

ああ。

しまった。


わりと暗い散歩道に配置されたベンチでは、
一定の距離を置いてカップルがいて。


ムフムフ、ちゅぱちゅぱ…


(ゆっくり泣けるところなんて、ないか…)

夜にこの公園に来ることがなくて知らなかったけど、
入り組んだ散歩道がカップルにはちょうどいいみたいだ。





カップルの姿にどうしても浮かび上がる、昼間の山田くんとの情事。

それからさっきの、乱暴なあの人。あの人に対する恐れと、身体の痛み。


3組目のカップルが見えてきた時点で、あたしは回れ右をした。

逃げるように公園を後にしようとして

後ろから歩いてきてたカップルにぶつかりかける。


「ご、ごめんなさ…」


うつむきながら小さく謝るあたしの目に、赤いパンプスがうつる。

好きな人と会うために履いた、ぴかぴか光るパンプス。

今からこの公園でひと時を過ごそうとする恋人たちの視界に入りたくなくて、

あたしは身をちぢこめる思いで通り過ぎた。


なのに。



手首をつかまれる。



「あやとり?」



……聞きたくなかった、柔らかな低音ボイス。









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