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秘密中毒

第13章 目撃



…………

手首をつかまれながら、
「ちがいます」とやっとの思いで言ったのに。

知らんふりしてくれればいいのに。

山田くんは一緒にいた女の人に「今日は帰って」とか言っている。


それであたしをぐいぐい引っ張って、公園のそばに停めてあった車に引きずり込んだ。

前に山田くんの家に行ったときに乗せてもらった、車。

今日はあの女の人を乗せてきたんだろうに。


「あの人、送ってあげてよ…てか、公園でいちゃいちゃするんじゃないの?」

あたしは泣いてた顔を窓のほうへ向けながら言った。

「デートだったんでしょ? あんなのかわいそうだよ。あたしは歩いて帰るから…」

ぐい。

山田くんがあたしの肩をつかんで自分のほうを向かせる。

「じゃあおまえは何でそんな格好してんの?」

あたしの言葉に答えないで山田くんが言った。

「あ…。」

あたしの服、あの人がボタンをちぎったままで、第2ボタンまでがはだけている。

今まで自分の服装のことは忘れてた。

「これは…なんでもない。」


「じゃ、何で泣いてんの?」


「そそそれはっ……」

ばれてるよね。そりゃそうだよね。


「そんな襲ってくださいみたいなカッコで夜の公園にいるお前、ほっとけっていうのか?」

少し苛立ったように言う山田くんの声が、あったかい。

そうだ、この人けっこう心配性なんだっけ。
あたしが熱の時にも看病させちゃったんだ。

…おかげで遊び相手になっちゃったりしてるんだけど。


「俺と遊んだのが旦那にばれて、怒られついでに襲われて、逃げてきた?」

表情を変えずに山田くんが聞いてくる。


「……」

すごい洞察力。いや、あたしの様子が見るからにそうなのか?

「厳密にいうと、違う」

「じゃあだいたいあってるんだな?」


「……!」誘導尋問!?
あたしはあわてて言い直した。

「ちがうの!

アメリカに、勤務先が決まったって…いきなりついて来てって言われてそれで、

何で今まで秘密だったのかって腹が立って、

あたしに興味がないみたいだったのに、急に襲ってきてッ…

でもあたしのことは必要だったんだって…思うとなんだか……」


また涙が出てくる。あたし、泣いてるときはいろいろ言っちゃうみたいだ。





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