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秘密中毒

第14章 最後日



あのとんでもない一日から
アメリカ行きまでは

たったの1ヶ月しかなかった。

あの人は今の会社の残務処理に追われて忙しくしている。

出発の3日前の木曜日、あたしは再び山田くんの部屋にいた。

…………
…………

「も、元に戻ってる…」


あたしがこの間片づけた部屋は、またひっくり返っていた。

洗いあがった服、本、書類、ゲーム機、エトセトラエトセトラ。

「なんでこうなるの!?こんな部屋じゃ探し物で無駄な時間がかかるんじゃない?」

「何がどこにあるかはだいたい覚えてるし」

しれっと山田くんが答える。


「また片づけないと!」と腕まくりするあたしを、後ろから捕まえて。

「今日はそのために連れてきたんじゃないから。」
と、山田くんがうなじに唇を落とす。


ああ、そうだ。

あたしがあの日、言ったんだ。「アメリカに行く前に、もう一度抱いてほしい」って。

今更ながら赤面するあたしの脇腹や胸を、服の上から大きな手が這い回る。


「自分の家も荷造りしてるんだろ?」

あたしの髪に顔をうずめた山田くんが聞いてくる。

あたしは耳のそばで響く低音に、心臓の動きが速くなって、ぼうっとしてしまう。

「ん、してるよ…。」

「あやとりも会社、やめたのか?」

「やめた、よ。…っ」


そう。アパートを引き払い、仕事をやめて、新しい生活に向かう。

山田くんとも今日が最後。
最後までずるい関係のままだったけど。

もう一度、抱かれたい。
それはあたしの本心。


山田くんの唇が、やわやわと耳たぶをもてあそびながら

あたしの好きな柔らかい低音を注ぎ込む。

「もうエロい顔になった」

そう言う山田くんも色っぽい目をして、あたしの向きを変え、今日最初の口づけをした。




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