
秘密中毒
第15章 再出発
「どうしたの、急に?」
話の先が見えなくて聞き返す。
いまさらその時の話を蒸し返す意味がわからなかった。
あの人は落ち着いていて、まあ聞きなよ、と続けた。
「あの時、家から歩いて20分くらいの公園から車を追いかけてさ。
追いつくわけないってあきらめてたら、家の近くにあいつの車、まだ停まってたんだよね。
あいつ、車から降りてうちのほうを見てた。
君がちゃんとドアを入るまで、いや入ってからも、見てたんだ。
……2人とも『遊び相手だ』って言ったけど。
あいつのあの姿を思い出すうちに、どうも違うなって確信するようになってね。」
カチ、カチ。
細心の注意を払っても、コーヒーカップを置く手が震えてしまう。
「彼はちょっとだけ、心配性なの。それだけよ」
あの人はしばらくあたしを見つめてから言った。
「もう時間だ。最後に教えてくれないかな、君とあいつ…
どこで知り合ったの?」
あの人には知る権利があるのかもしれない。
けれどあたしの中に、宝石のように光る2つの恋は、このままにさせて欲しくて。
「秘密」
とだけ、答えた。
あの人はまた少し微笑んで言った。
「君は僕と似て、ときどき変にストイックだよね。
だから余計な話をしたくなった。
…気が変わったらアメリカにおいでよ。僕ならいつでも待ってる」
