秘密中毒
第7章 接近
「んっ………」
目覚ましじゃない音で目が覚める。
えっと……この音って
「はっ!ケータイ!?」
バッグの中で鳴り続ける着信音に、跳ね起きる。
「も、もしもし!」
いつから鳴ってたんだろう?
相手も見ずに出ると、
「丸岡診療所の杉本です!」
明るい声が響いた。
「あ…」
今日が、2度めの往診の日だった。
ガンガンと痛む頭を押さえる。
「今日の14時に診察の予定だったんですが、お産が入ってしまって」
要するに往診キャンセルの電話だった。
「お産自体はすぐ終わるんですが、うちは小さい診療所なんで、前後の時間も手が取られて往診に出られないんですよ…」
杉本さんは申し訳なさそうに話した。
こういうこともあるんだな。
「わかりました」
「またご連絡しますので、次にお伺いする日を相談させてくださいね♪」
「はい…」
「水谷さん…あの、大丈夫ですか?」
「…え?」
「声がつらそうですよ?」
「そ、そうですか?」
さすが看護師…あたしは電話しながら、自分の不調を自覚し始めていたところだ。
大丈夫と10回くらい言って電話を切ったあと、時計を見る。
「うそ!もう12時?」
窓の外は春らしい陽気だ。
あたしはどうやら昨日の飲み会の後、着替えもせずにベッドに倒れこんだらしい。
頭が割れるように痛くて、立ち上がると足元がふらつく。
耳の中にも熱っぽい違和感があった。
(二日酔いするほど飲んでないし…風邪、ぶり返しちゃったかな)