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秘密中毒

第7章 接近



顔を洗って部屋着に着替え、熱を計ると38度5分あった。


「うああ…だめだこりゃ…」


あの人は今日から月曜の夜まで出張で、とっくに出掛けたみたいだった。


(山田くんの診察、キャンセルで良かった…)


この熱じゃ掃除とかできないし。

それに、今週はこれ以上気持ちを乱されたくない………。

杉本さんは多分明日になるって言ってたけど…


もう、違う病院に行こうかな………

妊婦さんや赤ちゃんを見ないようにして、遠くの病院を選んで。


(だってなんか会いたくないし。)

………

あたしはうすうす勘づいていたんだ。

あたしの中にトゲが生まれたのは山田くんに会ったからだってこと。


山田くんの存在はどうしても「あの頃」の自分を思い出させる。

山田くんが好きで、好きで―――だけど告白もできなかったあたしを。


夫以外の男と身体だけの関係を持ったり、また別の男にあんなことができてしまうあたしとは違う、あの頃のあたしを。

…………
…………

ベッドにもぐり込んで、なんて断ろうか考える。

「先生が意地悪だからって言おう…ぷぷ」


そういえばなんで産婦人科なんだろ。

昔から勉強できたから医者なのはわかるけど…。

受験も医学部じゃなかった、気がする。


そうだ結婚、してるのかな…彼女くらいいるよね……


今度会ったら聞いてみよう――――




あたしは薄らいでいく意識の中で、会いたくないはずの相手に聞きたいことを

いくつも思い浮かべていた。



…………

………………………

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