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過去に戻る男

第1章 過去に戻る男

ふと懐かしい名前を聴いた気がしてaはテレビに注意を向けた。

画面の中では沈痛な表情のレポーターがマイクを握っている、
が、そこで別のニュースに切り替わってしまった。
なんとなく、後味の悪さを感じたaは、5分ほど前の自分に意識を飛ばした。

aには過去の自分に戻ることができるというタイムスリップのような能力を持っていた。
自分の生まれる前の過去には戻れなかったり、戻る時間の自身の状況を正確にイメージしないとうまく戻れないなど、いくつかの制約があるものの、対するメリットの方が俄然大きい。
彼はその現象をトリップとよんで、自身の私利私欲のために有効活用してきた。

眉間に意識を集め、5分前の自分をイメージする。
やがて意識がうすれ、テレビの音が遠ざかっていく。

次の瞬間、意識が戻り、すぐにまた、周りの音が聞こえてきた。
一瞬、自分が何をしていたのかわからなくなる。

最近はトリップにも慣れていて、こんな事はなかったのだが、やはり慌てていたのだろう。
状況を理解しすぐにテレビに注意を向けると丁度くだんのニュースが始まるところだった。

画面の中では、丁度、現場らしき場所の中継に切り替わり、先ほどのレポーターが登場した。

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