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素晴らしき世界

第6章 不思議な同居人

俺は二宮さんを探すのを諦めた。

椅子に座り、料理を眺めた。

煮魚にきゅうりの酢の物、
ナスの煮浸しにご飯に味噌汁。

「美味そうだな……」

いつもなら『ありがとうございます』と
台所から二宮さんが振り返ってくれる。

「いただきます」

俺は箸を持ち、煮魚を一口食べる。

「美味しい……」

いつもは俺の言葉を聞いて
目の前で嬉しそうに笑ってくれた。

食べ進めるとお腹はいっぱいになるのに
心はどんどん空っぽになる。

ご飯を食べ終わり、
食器を流しに持って行こうと
煮魚のお皿を手に取ったら
その下からメモらしきものが出てきた。

そこには初めて見る二宮さんの文字。



大野さんへ

この手紙を読んでいるという事は
俺はもう大野さんの前から
消えてしまったんですね。

こんな名前もわからない
ましてや幽霊なんかの俺に
優しく接してくれて。

本当にありがとうございました。

できれば、
生きてるときに出会いたかった。

お礼というのもなんですが
冷蔵庫に作り置きの料理を
入れていますので
レンジで温めて食べて下さい。

残しちゃダメですよ。



二宮さんの書いた文字が滲む。

二宮さんが
流したであろう涙で滲む文字と
俺が流した涙で滲む文字。


最後に書かれていた言葉……


そして、
これだけは言わせてください。


大野さん、好きです。
これからも、ずっと。

この文章に二重線が引かれその下に


愛しています、智。
これからも、ずっと。


「うっ……、二宮さん……」

俺は必死に声を殺して泣いた。

そして、フラフラになりながら
ベッドに倒れて寝た。

朝起きると、端っこで寝ていた。

無意識に空けていたのだろう。

二宮さんが
戻ってくるかもしれないと……

でも、二宮さんはもういない。

たった1週間の同居生活
そして、一日にも満たない恋人。

でも、かけがえのない時間だった。

俺は窓を開けて空を見上げた。


雲ひとつない青空


これなら良く見えるかな?


ありがとう、二宮さん


俺もあなたを愛しています。


これからもずっと……


【To be continued……】

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