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偽りの好きも好き

第1章 求めてる


「大したことじゃないよ」

これ以上心配かけまいと
へらりと、お得意の笑顔で
裕二に笑いかけては
またカクテルに視線を移す。


「それ、にいなの悪い癖」

いつの間にか裕二の手が
私がグラス持ってない方の
手をそっと触れてきた。

(あ、駄目だ。やらかした)

軽く回ってない頭で
そう思うと同時に
裕二が私の手を軽く握り
口元に持ってきては
手の甲にキスをする。

その姿はまるで、
童話に出てくる王子様の様で
つい見惚れてしまう

「強がりにいな、たまには俺を頼ってよ」

そう言うと
手の甲の次に手首、
チュッというリップ音が
やけに響きわたる。

「やっ…やめ、て」

これ以上は危ない、
カンカンと頭の中で
警報が鳴り出す。

でも幸い、
私以外のお客さんがいなくて
本当に良かったと思う。

(2人っきりなんだよね)

いけない、と顔が熱く感じる。
けれどそれ以上に
裕二にキスされた
手の甲や、手首は
もっと熱く感じる。

「にいな、」

ぞくりとする

裕二が私の名前を呼ぶ
その甘い声が、
私の全身に駆け巡る。

(だめ、だめ、だめ)

頭では分かってる、けど
身体が勝手に求めてしまう。
裕二の全部が、欲しいって

「今日はもう、店閉めようか」

そっと私の手を離しては
ドアの方へと向かい、
裕二は鍵を閉めた。

「いいよね、にいな?」

このなんともいえない熱を
私は抑えたいから
裕二の言葉に
こくり、と頭を静かに
頷くしかなかった。

(最低、だ)

そう思ってはカウンターで
飲みかけのカクテルを見ては
夢でありますように、と
無駄な願いをした。

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