Sinful thread
第4章 追想
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『初めまして。……希美です』
あどけなさの残る少女のような外見に、大人っぽいワンピースを身に纏ったその姿が、今でも強く印象に残っている。
『俺は一条 葵。よろしく』
俺が右手を差し出すと、希美は伏せ目がちに手を伸ばし、俺の手のひらを軽く握った。
親父が顔合わせにと設定した、ドレスコードのあるような洒落た高級ホテルのレストラン。
そこが、俺と希美が初めて出会った場所だった。
……今思えばきっと、俺はこの時から恋に落ちていた。
それまでにも、ずっと親父が結婚を前提に付き合ってる人がいるということは聞いていた。
俺の実の母親は、俺が1歳半の時に病気で亡くなったと聞かされている。
だから、特に反対する気も、意見する気もなかった。
そもそも俺は大学生の時から、社会人になった今もずっと一人暮らしで、親父が再婚したとしてもあまり影響を受けることはない。
そう思っていた。