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Sinful thread

第5章 爪跡



お母さんはそう言って立ち上がると、リビングを出て行った。


……本当のことを知ったら、どう思うだろう。

ごめんね、お母さん。
でも、葵を好きって気持ちは、簡単に消せない。

……綺麗に消せたら楽なのに。
こうやってお母さんに迷惑かけることもなかったのに。



───それから一週間ほどお母さんたちの家に泊まったけど、葵から連絡が来ることは一度もなかった。


たまに、葵のマンションに自分の着替えや大学で使う資料や教科書を取りに行ったけど、時間帯のせいなのか遭遇することもなかった。


……あたしが帰らない理由を、葵はきっと察してる。


だから何も言ってこないんだ。


お母さんは早く仲直りしなさいって毎日のように言ってくるけど、裕翔さんは帰るのはいつでもいいって笑って言ってくれる。


……きっと、気を遣わせてる。

早く帰らなきゃいけないのはわかってるけど、なかなか踏ん切りがつかない。


なかなか結論の出ないまま、今日もお母さんがあたしのために用意してくれた部屋で、眠りに落ちた。



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