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浮浪者の声

第1章 1

人が倒れていました。
塾からの帰り道、公園です。 
僕の心臓はいっきに暴れ始めました。日もとっぷりとくれています。
こういう時、どうすればいいのかわかりません。
この辺りには変質者もでると聞いていたので、いっそう不安が増してきます。
遠くから眺めてみます。
1つ分かった事があります。
倒れている人はぼろ布のようなものをまとっています。
呼びかけてみても返事はありません。もしかして死んでしまっているのでしょうか。
僕は恐る恐る近づいてみることにしました。
2つめに気がついたことがあります。
彼の周辺の芝生は、まるで多くの人がもみ合ったように踏み荒らされていることです。
いったい何があったのでしょうか?僕は思い切って声をかけてみました。返事はありません。
何か聞こえたような気がして、思わず周りを見回します。辺りはすっかり暗くなって、通りがかる人もいません。
心臓はもう破裂しそうです。怖くてたまりませんが、倒れている人を放って逃げ出すのはいけない気がします。
もう少し近づいてみることにしました。
3つめに分かった事があります。彼は、(彼と呼ぶことにします。なぜなら顔じゅうがヒゲで覆われていましたから)、うずくまってうつ伏せに倒れているのですが、彼のすぐそばに何か光るものが落ちています。
よくよく目をこらすと落ちているものは携帯電話のようです。
ふっと風が吹きました。汗と体臭のまじったケモノのような匂いがします。

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