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浮浪者の声

第1章 1

僕は緊張に高鳴る胸を抑え、彼に近づきます。
片手をいっぱいに伸ばして携帯電話を拾い上げました。
その瞬間、うなり声のようなものが聞こえたような気がして僕は一目散にその場から逃げ出してしまいました。
ぜえぜえと息を切らしながら家に帰り着いた僕は、自分の部屋に閉じこもり呼吸を落ち着けます。
固くにぎった僕の手にはしっかりと拾った携帯電話が握り締められています。
いけない事と思いながらも携帯電話のボタンを操作してみました。
適当にいじっていると、画面が暗くなり、動画の再生が始まってしまいました。
真っ暗な画面に複数の若い男の笑い声が聞こえます。
次の瞬間、シュウシュウという音と共に閃光が走り、画面の中央にひげ面の男が現れます。
そして炸裂音。
笑い声がいっそう大きくなり、その合間にかすかにうめき声も聞こえます。
カメラのフラッシュがたかれたように、閃光は繰り返しひげ面の男を浮かび上がらせては闇に戻します。
花火のようです。どれぐらい続いたのでしょうか。と、突然ひげ面の男がうなり声を上げながら、画面に向かって突進してきました。
画面がぐらりと大きく揺れたかと思うとそこで画面が真っ暗になりました。
けれども音声だけはまだ聞こえてきます。どうやら携帯電話が地面に落ちてしまったようです。
男達の怒声が響き、何かを殴るような鈍い音が聞こえます。
どれくらい続いたのか、喧騒は遠くに響くサイレンの音でふつと途切れます。
「やべっ、いくぞっ!」「なにしてんだよ、ケンジっ!」「ケータイが。。。」
慌ただしく、走り去る足音と対照的に徐々に大きくなるサイレンの音。
そして、うめき声と、その合間にとぎれとぎれの声が聞こえます。
「、、、み、、き、ごめ、、なぁ、、、もういちど、、あい、かった」
そのか細い声を聞いた僕は、とても悲しい気持ちになりました。
僕は、携帯電話の電源をきり、机の引き出しの奥に押しこみました。
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