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旅は続くよ

第11章 前向きじゃない

Nside



本が好きだ

好きなものなんて、そんなに多くはないけど…

読むのも勿論好きだけど、眺めてるのも好きなんだ

なんつーかね

癒される



1人で店の留守番をしていると、目の前に並ぶ本が圧巻だ

古本屋の本棚は大きさも出版社もバラバラな本がビッチリ並んでて

1つ1つには膨大な物語が詰め込まれてるのに

誰かが手に取るまで微動だにせず息を潜めているように感じられる

静寂が漂う空間

古びた紙の独特の匂い

眺めてるだけで、頭がシン…と静まって落ち着く


ああ…、この感じ

今はもう無い実家の書斎に似てる

入っちゃ駄目だときつく母さんに言われてたのに

小さい頃から目を盗んで入った其処はいつも静まり返っていて

いつ忍び込んでも綺麗に整理されてて、物が1つも移動してない風景が

主である父親の不在を告げていた


書斎と本屋じゃ規模が違うけど

ここにいると、今は帰る事も出来ない家を思い出すんだ

懐かしさと同時に覚える胸の痛み

思い出されることが嬉しいのか悲しいのか

自分でもよく判らない



さと兄の代わりに店番してる間

ポチポチと他愛のない文章をパソコンに打ち込んでく

起承転結はおろか、山も谷もオチもない文章をズラズラと書き連ねて

頭をカラッポにする

日記とも違う、昔の頃からの習慣だ

だからライターの職についたんだけど…

なんだかな…

ただ呼吸しているだけの毎日

虚しさにも慣れてしまった

こんなんで『生きてる』って言えんのかな、俺…

そんな事を考えていたら

ガラッと店のドアが開く音が静寂を破った


O「ただいま~」

のんびりした声に沈んだ心がフワリを浮いた

N「おかえり。将棋勝てた?」

O「んにゃ、負けた。やっぱ師匠は強ぇわ」

近所の爺さんの所に遊びに行っていたさと兄が

俺の隣にドスンと座って、チラリとパソコンを覗いた


O「お、仕事?」

N「ううん。これはイタズラ書き」

O「ふ~ん…。イタズラ書きってアレか?“へのへのもへじ”みたいな」

N「パソコンでそんなの書くかよ」

O「ふふっ、そっか。仕事は順調?」

N「へ?…なに、急に」

O「だって、文章書いてるから」

N「単発の仕事ばっかりしてる状況で順調なわけがないでしょ?」


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