不透明な男
第8章 序章
部屋に光が射し込む。
その明かりで目を覚ます。
とは言っても、潤の家で寝ただけで帰ってきてからはあまり寝られなかった。
少しは寝たけれど、あの夢。
内容も何も覚えてないのに、おかしな感覚だけが残る。
それは、恐怖というか怯えというか…辛い感じもしてひどく胸が締め付けられる。
思い出す事が本当に正解なのか、このまま思い出さない方が良いのか。
思い出そうと必死だった俺が、思い出すのを躊躇っている様な感じさえする。
だがいかん!思い出さねば!と心を奮い立たせる。
まずは、あの家。俺の家だ。
…ちょっとこわい
智「翔くん♪」
翔「うわわっ」
智「そんな驚かなくたって」
ちょっぴり怖くなった俺は翔の顔を見に来た。
特に用事は無い。
翔「検診、今日でしたっけ?」
智「違う。服持ってきたんだよ。ありがとね?」
翔「あ、ああ。そんなに急がなくても良かったのに…」
智「それだけ。じゃ、お仕事がんばってね」
俺は翔に笑顔を向けるとくるっと後ろを向いた。
翔「…あ、お、大野さん!」
智「…なあに?」
俺は立ち止まり、翔を振り返る。
翔「…ランチ、付き合って貰えます?」
掛かった。
俺が仕掛けた罠。
智「…うん。いいよ?」
自分からは言わない。翔に言わせる。
引き留めて貰えるようにわざとそっけなくしたんだ。
サヨナラの挨拶の時は、ふんわり笑ってやる。
だけど、ちょっと寂しそうに、残念そうに笑ってやるんだ。
そうすると、優しい翔は必ず俺を引き留める。
何があったの?と心配そうな顔で、俺の名前を呼ぶんだ。