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Face or Body

第59章 生まれくる命

季節は梅雨を過ぎ
夏本番の日差しが痛いくらい突き刺さる
真夏を迎えていた。


ヒカルが連れてこられた部屋には
初老の
しかし穏やかさのなかに
いくつもの修羅場を生き抜いてきたことが
空気でわかるほどの
鋭い迫力を醸し出す人物がいた。

ヒカルは
山縣の顔に見覚えがあった。

かつて
港竜会を壊滅に追い込んだ事件

後輩モモが受けた暴行に
ヒカルが港竜会の若い衆に
怒りの報復として
とどめの一撃をくわえようとした際に
ストップをかけてくれた
あの初老の男…
オヤジとよばれ
闇からベイエリアを支配する
山縣だと気づくのに
さほど時間がかからなかった…。

『私を覚えてるかね… しかし、もうあたなは昔のあの女刑事ではなくなったかね…。暴力という恐怖に屈服したかね? ……それも仕方ないことだ…。』
山縣は
ヒカルをマジマジと見つめて
そうささやいた…。


―――………
どうする?
このまま
プライドも尊厳も粉々に砕け散った私を
演じ続けるか?

ヒカルは山縣からの
問いかけに対してどう反応すべきか
悟られぬよう
頭を高速回転させて考えていた。

さいわいにも
愛娘トウコはヒカルの腕のなかで
眠っているが…。

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