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泣かぬ鼠が身を焦がす

第26章 嘘八百


「到着しました」


運転手さんの声と同時に車がゆっくりと停車した

母さんが運転手さんに代金を払って車から降りる

俺もそれに続いて降りると、目の前には大きな家


「……」
「早く来なさい」


久しぶりだ
2度と帰ってこないつもりだったのに


総理大臣公邸
ではない

あの人が個人で持ってる家

最近の総理大臣は公邸になんて住んでなくて、普通に自分の家にいる


公邸にいてくれたら、俺は入れないから一緒にも住めないのに


先に門をくぐった母さんが重厚な扉を開けた


「入りなさい。……自分の部屋はわかるでしょ」
「……」


母さんは俺を振り返りもせずにそう言って、家の奥へと入っていってしまう


家の中も、変わってないな


俺は1人廊下を進んで、昔自分の部屋だった扉を開いた


「……っ」


中を見た瞬間、俺の身体が微かに震えた

目を瞑って暗示をかける


大丈夫

大丈夫

あの人はまだこの家にいない
この部屋にもいない

大丈夫


「ふーー……」


息を深く吐いて目を開く

記憶にある俺の出て行く前と変わらない部屋

何年も人に寄生して生きてきたから許されなかった、俺の好きな色や物が溢れる部屋

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