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泣かぬ鼠が身を焦がす

第26章 嘘八百

拓真目線


「…………」
「気になりますか?」
「……いや……」


嘘だ

先ほどからずっと携帯電話を気にしている


純から

自分の本当の親の元へ戻った純から
送ったメールが返ってこないからだ


そのことを静に悟られてしまって、俺は少し首を振って頭の邪念も払った


「……」


悲しそうな顔をしていたな


当たり前か
俺のところにいたいと言ってくれていたんだから

それなのに何故手放したのか
それを説明する時間もなかった


「はぁ……」
「少し休まれてはいかがですか。……先ほどからずっとため息ばかり吐かれています」
「……そうだな。悪いが、コーヒーを淹れてくれ」
「わかりました」


静が部屋を出て行って、俺はまた溜息を吐いた

作業をする手を止めて天井を仰ぐと、頭に浮かぶのは純の母親と対峙した時の光景


想像以上にキた、な


血の繋がった母親

顔の作りもどこか似ていた
それに声や話し方もどこか面影があった

長い時間
生まれたその瞬間から、数年前まで
一緒に暮らしてきたその証

それを目の前にして、血も繋がらない赤の他人の俺が何を出来るっていうのか

親とは一緒に暮らした方がいいと感じてしまうのは仕方がないだろう

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