
好きになったらダメだよ
第6章 最低同士だからいいんじゃない?
「なんで逃げるの?」
そう言って腕をつかまれたのは、数学準備室に逃げ込もうとしたときだった。
ずっと追いかけてきてくれていたのだろう。
「離してよ。」
伊都の顔が見れない。
「俺のことどうでもいいなら、逃げる必要ないでしょ?」
離す気なんてないのか、伊都の手の力は強くなる。
私がどんなに乱暴に振り払っても敵わない強さだ。
「別に逃げたわけじゃないもん。仕事思い出しただけよ。」
……お願い。
もうこれ以上、私に触れないでよ。
「授業中もわざとらしく目をそらすし、話しかけようとしたら逃げるし、何考えてんの?」
「……。」
「愛莉の方が全然先生と生徒に戻れてないじゃん。」
……伊都の言う通りだ。
数Bの時間。
休み時間。
掃除の時間。
伊都を見つけるたびに、私は彼を見ないようにした。
用事がありそうな素振りに気付いても、気付かないフリをした。
