
好きになったらダメだよ
第6章 最低同士だからいいんじゃない?
「愛莉さ、なんか俺に隠してない?」
「ないない!なにも!」
保と別れてるとか、一人になる道を選んで今ここにいるとか、そんなことは伊都に伝える必要のないことだ。
「じゃあなんでそんなに俺を避けるの?」
……だって少しでも気を許したら伊都に触れたくなる。
抱きしめたくなる。
甘えたくなる。
一緒にいたくなる。
そんなの絶対ダメだから。
伊都が何か言いたげに口を開くと同時に、校内の放送がなった。
「2年の川田伊都さん。至急、中庭の店まで戻ってきてください。至急です。」
橘の声だ。
何が至急なのかよく分からないが、伊都の手が怯んだ隙に、私は数学準備室に逃げ込んだ。
……もっと大人にならなきゃ……。
伊都の名前ぐらいしか知らなかったときのように。
数Bを教えていただけの関係のときのように。
動揺せずに彼と向き合わなきゃ。
