
好きになったらダメだよ
第3章 声は出したらダメだよ?
「おはよー」
扉の開く音と、気怠そうな声が同時にし、
「……ございます。」
足音と共にわざとらしい丁寧語がした。
「おお!川田。今日は早いな。」
何も知らない主任は伊都に小さく手を挙げる。
ちなみに主任も私と同様で、担任は持っていないが、伊都の学年の学年副主任ではある。
「課題、持って来ました。」
私たちの間には何事もないかの風で、伊都は鞄からプリントを取り出し、私に手渡す。
「あー……えっと…ご苦労様。」
鍵……返そうと思って今朝、パンツスーツのポケットに入れてきたがさすがに主任の前では無理だ。
「てか、めっちゃ難しかったんだけど。」
そう言って口を尖らせる伊都は、ちょっとやんちゃな一生徒にしか見えない。
「川田、敬語!」
そう言って、横から主任が伊都に軽く注意する。
「はーい。すみません。」
なんてのか……演技派だなぁ……
「プリントは今日中に見て、クラスのボックスに入れとくわ。新しい課題と一緒に。」
「あ、大丈夫です。放課後に自分でここに取りに来ますから。」
伊都はそう言って、主任には気付かれないように、口の端に笑みを浮かべた。
……会いにきてくれるってことだろうか。
「そしたら失礼しまーす。」
ぺこりと頭を下げて伊都が部屋を出たタイミングで、主任が口を開いた。
