好きになったらダメだよ
第5章 もし本当になったらどうする?
「いやぁ、久しぶりの愛莉の飯はやっぱり旨いなあ。」
そう言って保はハンバーグを頬張る。ハンバーグは保の大好物でもある。
今日も彼はスーツ姿だ。ジャケットとネクタイは脱いで、今はスカイブルーのシャツにグレーのズボンという井出達だ。
「今日も仕事、大変だったの?」
時計の針は20時を回っている。約束の時間より2時間は遅い。
「今日はそんなにだよ。ただ、得意先の人と話が盛り上がっちゃって、気付いたら時間が過ぎてたんだ。」
「そっか。順調そうで良かったよ。」
保のコミュニケーション能力は高い。
相手の性質や性格、癖などを一瞬で見抜き、それに応じた会話を展開する。
だから取引先などの信頼も厚く、営業成績も同期の中では断トツのトップらしい。
「愛莉は?どう?学校は。」
「それなりにだよ。中間テストも終わったし、もうすぐ文化祭が始まるけど、担任を持ってない先生はそんなに忙しくもないし。」
そう、そろそろ文化祭シーズンに突入する。
私の学校は一応進学校ということもあり、行事ことはだいたい夏に終わらしてしまう。
秋には3年生は受験一本になり、これといった行事は羽安めの遠足があるぐらいだ。
「じゃあさ、仕事も落ち着いてるみたいだし、今度実家に来いよ。」
「へっ?」
保の突然の提案に、思わず体が強張ってしまう。
「両親にも紹介したいし。」
「それって……」
「前から言っているじゃん。俺は愛莉と結婚考えて付き合ってるって。」
「……。」
そう、こうやって保に言われたのは初めてではない。
プロポーズとまでは言わないが、いつでも真剣に考えているという話は、よく聞かされている。
「……ねえ……」
だから……言わなきゃ。聞かなきゃ。