好きになったらダメだよ
第5章 もし本当になったらどうする?
「じゃあ、中夜祭のときに、会いに行くわ。」
「うん、会いに行ってあげて。きっと、刈谷さん喜ぶと思うから。」
自分の気持ちに嘘ついてね?
耳の奥で橘の言葉がエコーのように響いた気がした。
「何言ってんの?愛莉に会いに行くって言ってんだけど。」
クッと伊都に手首をつかまれて、体は身動き一つできなくなってしまう。
心臓の鼓動がやけに煩くて、それをかき消すために、私はわざと笑い飛ばしてみせた。
「私に会いに来てどうするの?ずっと一緒にいるなんてなったら困るじゃん。」
「別に困らないけど。」
さっきより伊都の腕の力が強まる。
「まあ、所詮はジンクスだもんね。」
伊都から視線をそらして、ジンクスを強調して言ってのける。
「確かにジンクスだけど……もし本当になったらどうする?」
「……。」
真剣な伊都の目と手首を握る腕の力。
ダメ……このままじゃダメ……
とっさに伊都の手を振り解いていた。
回転椅子が横倒しになるくらいの勢いで、立ち上がり、そのまま数学準備室を飛び出していた。
問題用紙やテスト用紙が散乱している部屋に生徒を一人置いて行ったなんて、お咎めものだけど、あの場になんていられなかった。
心臓が痛くて
ギュッと締め付けられて
息をするのも苦しくて限界だった。