愛しの殺人鬼
第1章 ひまわり畑
「黄色も合いそうだけど、血の色も似合ってる」
低い、穏やかな声。
それなのに、ぞくりとする肌。
「味見していい?」
そして、その言葉が聞こえた瞬間、熱く濡れたそれが頬の血を舐めとった。
ぴくりと、思わず体が反応してしまう。
「なっ、」
「大事な顔に傷を作ったんだ。それなりに責任は負うよ」
「せ、責任?」
やっぱり変質者だろうか。会って間もない女子高生の頬を舐めるなんて。と身構えていると、先程みた鈍く光る冷たい物が首にあてられ、自然と目が見開いた。
視界いっぱいに映る男には先刻見た笑顔なんてなくて、冷たい表情を貼り付けていてぞくりとする。
黒髪から覗く瞳は温度がなく、だけどその奥には揺れる何かが垣間見えた。
「もしかして、本気なんですか」
「俺、嘘はつかない主義だよ」
「…そうですか」
昔母が言っていた。人間には生まれてすぐに寿命が決まっていて、その寿命も運命なのだと。
ならば、この人は。
「貴方は、私の運命の人なんですね」
私の寿命を終わらせる、運命の人だ。なら抗う必要なんてない。母も父も、抗うことなく運命を受け入れたんだ。