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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第4章  闇に響く音

「もう、隆平(りゆうへい)なんて、知らない」
 それだけ言うと、後は堰を切ったように泣き出してしまった。
「どうしたの、隆平さんと喧嘩でもした?」
 鹿井(しかい)隆平、従姉の十五歳下の恋人だ。何でもフリーターをしながら、写真学校へ通っている苦学生らしい。らしいというのは、あくまでも萌は、その隆平という男について何も知らないからだ。
 高校のときに暴走族に入って身を持ち崩して中退、親からも勘当されていた少年がある日突如として写真に目ざめ、カメラマンを目指すようになった―と、亜貴は隆平なる男の言葉を鵜呑みにしているようだが、果たして、その話にどれだけの信憑性があるのかどうかは疑わしい。
 隆平はコンビニやガソリンスタンド、回転寿司屋など色々なバイトを掛け持ちしており、亜貴とはコンビニのレジ打ちをしているときに知り合った。亜貴の暮らすマンションの一階に、そのコンビニが入っているのだ。
―写真コンクールに出す作品のモデルになって欲しいって言われてね。
 と、亜貴は実に嬉しげに語っていたが、内実は、ヌードモデルであった。
―亜貴ちゃん、そんな妖しげな男の言うなりになって、大丈夫なの? 
 むろん、萌は一応異を唱えてはみたけれど、今時のいかにも美男(イケメン)らしい隆平は巧みな話術と爽やかな笑顔で従姉の心を打ち抜いたようで、亜貴は萌が何を言おうと取り合いはしなかった。
 実際、隆平が撮ったその亜貴のヌード写真は、何というコンクールに出品して、その後どうなったのかすら判らない。隆平自身が亜貴に何も語らないのだそうだ。
―ねえ、こんなことを言いたくはないんたけど、まさか怪しげな信用できないアダルトサイトなんかに投稿されてるってことないわよね?
 写真を撮られた亜貴本人も知らない中に、インターネットにアップされてるなんてことも、全くないとはいえない。聞くところによると、その手の写真を投稿して、バイト代わりにして稼いでいる素人カメラマンもいるという話だ。
―隆平がそんな馬鹿なことをする筈ないでしょ。
 亜貴は萌の心配を笑い飛ばしたけれど。
 その話を忘れた頃、萌は女子大英文科時代の親友のユッコこと斎藤友紀子から連絡を受けた。ユッコは亜貴とも顔見知りで、萌たちは三人でお茶をしたり、映画に行ったりしたことがあるから、亜貴の顔を見間違える筈もないのだ。

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