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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第5章 再会

  再会

 荘厳なパイプオルガンの音色が突如として轟き、萌は長い物想いから自分を解き放った。
 教会のドアが外側から開き、新婦が静々と入場してくる。デコルテを大胆に見せた純白のウェディングドレスは、トレーンを長く引いた最新流行のデザインだ。胡蝶蘭を束ねたブーケは新婦の母手ずから作ったもので、バージンロードの向こうで待ち受ける新郎の纏ったタキシードの胸ポケットにも同じく胡蝶蘭のブートニアがさりげなく挿されている。
「それにしても、亜貴ちゃん、やってくれるわね。私、招待状を貰ったときには、正直言って、ドッキリか何かかと思ったわよ」
 すぐ傍らに座ったユッコが聞き取れないような声で囁く。
 その意見には全く同感だ。あの早朝の突然の電話から、きっかり二ヵ月後のこと。
 またしても、従姉から急な電話があった。むろん、前回のように、早朝ではなく、夕食の後片付けをしていた萌に、夫が〝亜貴さんから電話だ〟と言ってきたのである。
 亜貴からのその電話は、開口いちばん、
―私、ついに運命の男を見つけたの。
 だった。
 それから、その新しい恋人、つまり、今日から亜貴の旦那さまとなる男性について延々と二時間近く聞かされる羽目になった。
 亜貴は隆平と別れた後、すぐにハワイへと旅立った。本人いわく、傷心旅行だったそうだ。会社は使わず溜まっていた有給をこの際、有効に活用したとか。
 人の好い従姉は頼まれれば、他人の仕事も引き受けたし、休日出勤も率先して買って出ていた。元々、スキューバダイビングが趣味の亜貴は、ハワイはこれが初めてではない。亜貴の夫となる彼もまた一人でハワイに来ており、ダイビングのインストラクタ―をするほどの腕前だ。
 二人は知り合うべくして知り合い、すぐに恋に落ちた。両親や親戚の手前、挙式は日本でも行うが、実は披露宴の後、出かける新婚旅行先のハワイの教会でも二人だけの式をもう一度行うという。
 確かに、ハワイは二人にとっては想い出の場所だから、ハワイで挙式を挙げたいという二人の強い気持ちは判る。当初はハワイ挙式を考えていた二人だったが、両親はともかく、親戚をそんな遠くまで招待するわけにはゆかないということで、急遽、日本での挙式が決まったそうだ。

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