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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第6章 Tomorrow~それぞれの明日~

 Tomorrow~それぞれの明日~
 
 一年ぶりに見る祐一郎の顔は、少し陽に灼けてワイルドになったように見えた。もう二度と逢うこともないだろうと思っていた人だけに、いざ現実に再会してみると、何をどう言えば良いのか判らない。
 萌は所在なげに視線をさ迷わせる。祐一郎の顔を何故か、直視する勇気がないのは、自分の中にまだ彼への想いがほんの欠片でも残っているからだろうか?
 喫茶コーナーは全面ガラス張りの庭園に面している。スペースとしてはさほど広くはないが、間隔を取ってガラス・テーブルとソファと配置してあるため、ゆったりと感じられる。
 まだ十代後半にしか見えないウエイトレスが銀の丸盆を胸に抱いて近寄ってきた。黒のワンピースのお仕着せに、白いエプロン。まるで流行りのメイド喫茶のようだ。バイトの子だろうか。
 萌は長い茶髪を束ねもせずに垂らしている少女を眺めながら、ぼんやりと考える。普通、飲食店で働く女性は、ロングへアであれば束ねるものではないだろうか。むろん、衛生上の配慮だが、老舗のホテル内の喫茶店ともあろう店が従業員教育を徹底させていないらしい。
 ―などと、若い子を批判的な眼で見てしまうこと自体、自分がもう立派な〝おばさん〟である証明だ。 
 萌がミルク入りのアイスティーを注文すると、祐一郎が落ち着いた声音で続ける。
「僕はホットをお願いします」
 若いウエイトレスは伝票に注文をペンで書きつけ、去っていった。
 その場に再び沈黙が落ちる。
 萌は視線をガラス窓の方に向けた。できるだけさりげなくふるまっているつもりではあったけれど、果たして、彼の眼にどう映じているかは疑問だ。 
それに、萌の愁いは別にもあった。披露宴の終わり際に耳にしたユッコの言葉が心に重い石のように沈み込んでいる。
―そうよね。真面目な萌がまさか不倫なんて、するわけないものねえ。史彦さんという人がちゃんといるわけだし。
―どうせ口だけよ、萌にそんな大胆さがあるわけないじゃない。
 私は、同性である女性から見ても、そんなに魅力に乏しいのだろうか? 生真面目でお堅いイメージしかない、つまらない女?

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