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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第6章 Tomorrow~それぞれの明日~

「私が結婚した頃は、まだ結構、派手な演出が流行ってる時代でしたよ。披露宴の前に、どんな内容にするかって、ホテル側の人と色々相談するじゃないですか。司会を頼んだ方がとにかく派手好きな人だったから余計で、新郎新婦の席の後ろにレーザー光線を当てて、二人の名前を壁に浮かび上がらせるだとか、相合い傘で入場とか、かなり恥ずかしい演出を提案されました」
 祐一郎が笑う。
「で、やったんですか、それ」
 その時、先刻のウエイトレスがまたやって来て、アイスティーとホットコーヒーを置いていった。
 少女が銀盆を抱え、一礼して去ってゆくのを見届ける。身なりはともかく、客に対する礼儀はちゃんと躾けられているようだ。
 見かけによらず、良い娘なのかもしれない 萌は笑いながら首を振った。
「まさか、とんでもない。主人がそういった派手派手しいのは嫌いだったから、すぐに断ってくれました」
「僕のときも、まだ、そういう名残は残ってましたよね。ゴンドラに乗って新郎新婦が降りてくるなんてのは、もう定番でしたっけ」
「えっ、祐一郎さんもそれをやったんですか!?」
 萌が愕きを隠せずに言うと、祐一郎は恥ずかしそうに笑った。
「うちは、女房がそっち系が好きでしてね。一生に一度なんだからと泣きつかれて、仕方なく、ですよ」
「今日、結婚した従姉に訊いたんですけど、今はもう流石にそういうど派手なのは流行らないらしいですね」
 バブル時代はとにかく〝派手婚〟が当たり前だったけれど、今はもう、そんな時代ではない。
「一時はハデ婚の次はジミ婚が良いなどと言って、式も披露宴もしないなんてカップルが多かったですけど、今は各々自由というか、多種多様ですよ。僕はこういう仕事をしてるから、仕事柄、結婚式の出張撮影に出向くこともあるんですけど、本当に皆さん、それぞれ個性がありますね。昔ながらの派手な演出をなさる方もいれば、今日のように落ち着いた披露宴をなさる方もいます。どれが良いとか悪いとかいう時代では、もうないんでしょうね」
 祐一郎がしみじみとした口調で言う。
 萌は頷いた。
「それって、多分、良いことなんでしょうね」

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