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レット・ミー・ダウン【ARS・NL】

第4章 モーニングセット【翔】

いつも通りBセットを平らげると、彼は勘定をするためにカウンターの前に立った。

私がお釣りを渡すと、彼は無造作に小銭を財布に投げ入れた。

「ごちそうさまでした。」

彼はそう言うとドアへと向かった。

「ありがとうございました。」

その背中へお礼の言葉を投げかける。

ドアの前で立ち止まると、彼はこちらを振り向いた。

「あの、俺、やっぱあなたの目玉焼きじゃないと駄目みたいで…。」

「え…?」

あっけにとられている私をよそに、彼はサクランボの唇からかわいい前歯をのぞかせて微笑むと、風のように去って行った。





それからも、彼は時々店にやって来た。

相変わらず、必要以上のことは話さない。

私も、話しかけない。

ただ、変わったのは。

勘定を終えて出て行く彼が、私に言う。

「行ってきます。」

私も、それに応える。

「いってらっしゃい。」

他の常連客のように、名前を呼んだりしない。

彼との距離は縮まらない。

でも、この距離が、きっと彼と私の最短距離。

くしゃっと崩れた愛らしい笑顔を残して、彼は今日も店を出て行った。

【モーニングセット・翔】

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