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レット・ミー・ダウン【ARS・NL】

第7章 ビスケット【雅紀】

コータとスーパーに寄って買い物をして帰ると、サエが私のヘアクリップを付けていた。

グリーンのラインストーンのヘアクリップだ。

〇「お母さん、このヘアクリップ借りたよ。ドレッサーに置いてあったやつ。」

そのヘアクリップは照明の光に反射して、キラキラと光っていた。

〇「それ、サエにあげる。」

サエ「いいの? やりー!」

私は洗濯物を取り込むと、晩ご飯の用意に取りかかった。

コータ「きょうのごはん、なに?」

〇「ミートソーススパゲティよ。」

コータ「わーい!」

サエ「やった! お母さんのミートスパ、好きなんだよね!」

〇「コータ、宿題しなさいよ。サエも塾の課題があるでしょ。」

コータ「このアニメがおわったらやるー。」

〇「だめ、今すぐやるの!」

そうしてるうちに、夫が帰って来た。

夫「ただいま。おっ、今夜はミートスパか。」

〇「もう少しかかるから、あなた先にお風呂入って。」

夫「おーい、コータ。風呂入ろう。」

コータ「いましゅくだいしてんのー。」

サエ「お母さん、この英文なんだけどさー。」

〇「あとにして! お母さん忙しいんだから!」

サエ「なによ、課題やれって言ったくせに!」

〇「もう晩ご飯できたわよ。テーブル拭いて!」

夫「えっ、風呂は?」

〇「お風呂はあとで!」

コータ「えー!」

毎日の生活に追われて余裕がなくなっていた。

もちろん今もそれには変わらないんだけど。

相葉くんとの一週間が、私の心の輝きを少しだけ取り戻してくれた気がする。

浮気心がなかったというと嘘になるけど。

素敵な時間をくれたことに感謝してる。

〇「じゃあ、食べるわよ。いただきます!」

「「「いただきまーす!」」」


あのビスケットは、まだ私のカバンの中にひっそりとしまってある。

【ビスケット(雅紀)】

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