虞犯少年
第5章 光無き世界
「男は明日香と話すな。コイツになんかしたら女だって容赦しねー」
ドンっと鈍い音と共に低く脅す声は静かな教室でよく響いて耳の奥までジワジワと貫く。
私の意思なんか関係無いんだ。
分かってたことなのにこんなにも悲しくて苦しい。
私にだって意思がある。人形じゃない。人間なのに。
愛されることへの恐怖と九条嵐という人への恐怖。
「お前は逃がさねーよ」
耳元で囁く声は獲物を狙った肉食獣のよう。ゾクりと寒気が襲う。その瞳を見ることを体が拒んだ。
――――私は、
立花明日香という人間は、九条嵐の"所有物"でしかない。
狂った思考の辿り着く場所は、物欲ともいえる束縛心。
出来ることなら――…彼と出会いたくなかった。
光無き世界
(私の世界は真っ黒で真っ暗。)