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虞犯少年

第6章 何も聞こえない




そういえば嵐はバイクで通学してると聞いたことがある。バイク禁止のこの学校でそんなことをする人もなかなかいない。そのバイクをどこに置いてるのかは知らないけど、この1ヶ月一緒に帰るようになって一回も嵐がバイクに乗る姿なんて見たことがなかった。アレはただの噂だったのかな?さすがにバイク通学なんてそんな危ないことしないよね…



「どうした?」



考えて静かになってた私に嵐は真っ直ぐな瞳を向ける。それが怖い。いつも、真っ直ぐに私を捉える瞳が歪んでるこの人に似合わない澄んだ色をしていて不格好だと思ってしまう。

下を向きながら「噂で聞いた」から始まって疑問をぶつけてみればいきなり額にキスされた。ビックリして顔を上げて見た嵐はなぜか嬉しそうな顔。



「明日香が初めて俺に興味持ったな」



口元を緩めながら嵐がそう言って人目も気にせず抱き締められた。こんな顔を私は初めて見る。



「明日香を後ろに乗せらんねーだろ?事故ったらやべぇし。だからバイクはもう乗んねー。朝、通学すんのだるいけど一緒に帰れないほうが何倍も嫌だ」



私の為だとは言わない。確かにお前の為だと言われても困る。私はそんなこと望んでない。だけど嵐がすることは勝手に私の為になってる。意味分かんない。なんで私なんかの為にそこまでできるの?あの九条嵐が女一人の為に何やってんの。


言いたいことがたくさんあった。言ってやりたいことがいっぱい。けど言葉にならなかった。嵐のその唇が私の唇を塞いで、酸素が混ざる。ねっとりとした舌が口内を犯して息苦しい。酸素を奪われた。体も奪われた。だけど心までは奪われなかった。




「お前が居れば他の奴なんていらねぇよ」




そうやって依存していく。
お願い。これ以上私を狂わせないで。







何も聞こえない

(そんな世界があったらいいのに。)



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