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涙が出そうになるくらいに。

第1章 私の命の恩人は

目が覚めた

無機質な天井が目の前に広がる

私には清潔感のあるシーツがかけられていた。
窓から差し込む光に目を細め、体を起こそうとする。

「おはよう」

急にかけられた言葉に驚き、声のした方を見て初めて、そこに一人の女の人がいることに気がついた。

「……お、おはようございます」

おそるおそる答えると女の人は微笑んだ。

なんで自分はこんなところで寝ているのか…。
はっきりしてきた頭の中で必死に考える。
と、一つ思い出した。



私は船に乗っていた。奴隷の運ばれる船に…。
そう、私は奴隷として売りに出されるはずだった。

その船が嵐に巻き込まれ、奴隷たちはみんな海に投げ出された。もちろん奴隷使いたちもみんな。

縛られていた奴隷や檻に入れられていた奴隷たちは助かってないんだろうな…。

私は幸運にもこの人に助けられた。

「あの……ありがとうございました。私を助けてくれて…その…」

とにかく頭を下げた。本当に助かった。
あのまま船の上だったら私は…。

「あなたはΩね?」

その言葉に私はふるえた。
思わず首元に手をやる。

「あ、あれ?…く、くびわっ」

が、自分の首にくびわがないことにゾッとする。

「ふふ…かわいいわね…」

女の人の手が顎に触れ、私を引き寄せる。
耳元で囁かれて体が固まってしまう。

「や、やだ…やめっ…」

と、女の人は何もせずに私から離れ、手に首輪を握らせてくれた。

「えっ…?」

「私は薬を飲んでいるから平気よ」

そう言った女の人は私に一粒薬のようなものを手渡した。

「それを飲みなさい。Ωならわかるでしょう?」

それだけ言うと女の人は部屋に出て行ってしまった。

自分が涙を浮かべていることに驚く。

あぁ。私はこんなにも弱虫だっただろうか…。

「最悪…っ」

首輪をしっかりと付けて安心できる。
薬を飲んでホッとする。

Ωじゃなければ、例えばβだったら…。
こんな気持ち知らずに済んだ。

あの女の人はきっとαだ。薬を飲んでいると言っていた。
気をつけなければ…。

そんなことを考えながら外を見る。
随分ふるえが治まってきた。

でも、あの人が助けてくれたから…。
どうしてΩなんかを助けてくれたのだろうか…



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