続・あなたの色に染められて
第3章 知らない過去
呉服屋さんに長居してしまった私たちは商店街の定食屋さんでご飯をいただいて自宅に戻った。
シャワーを浴びて京介さんの待つリビングに戻ると 彼はビール片手にソファーの下に腰を下ろして
『はい ここ座って。』
私を膝の間に座らせて後ろから抱き抱えるように頬をくっつけて
『何見てるんですか?』
『なんでしょう。』
ローテーブルにポンと置かれていたのは一冊のアルバム
『どうしたんですか?』
『家から持ってきた。おまえのは昔見たことあったけど俺のはねぇだろ?』
きっと 昨日 わがままを言ったから京介さんは気を使って持ってきてくれたんだ。
『なんか ドキドキします。』
見事なまでに編集されたこのアルバムはお母さんの手作りだそう
『二十歳の誕生日に育てた記念にってさ。』
『お母さんらしいですね。』
『暇なだけだろ?』
写真の一枚一枚に愛に溢れた一言が添えられて
『ウフフ 可愛い。』
『可愛いって言うな。』
生まれたばかりのスヤスヤと眠る京介さんに、カメラを見ながら何かを訴えるように泣いている京介さん。
『もうボール持ってる。あっこっちはバッドも。』
ページを捲るごとに成長していく彼の姿は微笑ましくて
『あっ 中学生になると坊主になるんだ。』
『まぁ 野球部の宿命みたいなもんだよ。』
今までリビングに飾られてる写真を何となく眺めていたけど こうやって順を追って見ていくと彼の軌跡に触れているような気がした。
『俺さ 過去には興味ないんだよな。』
『…え?』
『過去にどんなことがあったかより これからおまえとどんな人生を歩むのかっていう方が興味ある。』
過去がどれだけ大切か京介さんは痛いほど知っているはずなのに
『おまえと出会って楽しいことも苦しいこともあったけど こうやって二人で乗り越えて今があるだろ?』
同じ想いを共有しているから 手を取り合えば歩んでいけることを知ってるのも私たちで
『ここから先は俺たちで埋めていこうぜ。』
成人式のページを捲るとまだ手付かずの白紙のページが残っていて
『はい これ。』
手渡されたのは二人並んで高砂に座る結婚式の写真
『京介さん。』
新しい二人の1ページに大切な想い出が刻まれる。
『また泣く。』
『だって…。』
背中に彼のぬくもりを感じながら その写真にそっと手を添えた。