テキストサイズ

楔 ---KUSABI---

第1章 壱・白羽の矢

と考えると、項垂れ襟をつかんで揺さぶるだけになっている
滑稽な男に対して、少し好奇心が生まれた。

ここは、波乱をあえて呼ぶ、という手もある。

ふっ・・・と一瞬笑ったのを聞き逃さなかった相手は、
がっくりとしていた筈なのに、笑ったのを嘲笑と捉えたのか、

「馬鹿にしやがって!」

手が持っていた衿から、首に移動。

「殺してやるッッ!!!」

力が入る手・・・でも、閉められるぐらいで、
死ぬことはありえない。

首を絞める両手は相当力が入っているはずだが、
痛くも痒くもないので、相手の顔、
そして目をじっと見ながら・・・。

『舞え、踊れ、操り人形』

「・・・・・・」

怒りで血走っていた目が落ち着く。
焦点が定まり、怒りは少しずつ収束する。
と同時に浮かぶ戸惑いの色。
苦悶の表情一つ浮かべないわたしに怪訝な表情。
首を絞めるのに、力の入っていた両手は少しずつ抜けて。

『舞え、踊れ、わたしの為に』

見入られたようにわたしを見る男の唇を奪う。
呆けている男の薄く開いた唇に、舌を入れて、絡め・・・。

「・・・・・・ッ」

一瞬のち、首の圧迫は無くなり、ドンッと胸を押され、
反動で、バシャンと水飛沫とともに身体が倒れる。
わたしは、そのまま身体を水底に沈めた。

男の驚愕した顔を、水中から笑いながら眺めつつ・・・。

-----side ? 終了-----

ストーリーメニュー

TOPTOPへ