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素肌

第2章 1.苦色(にがいろ)

一人で考え込む時間は好き。
いや、割と、っていう程度かな。
書類とにらめっこしながら、大森紗英はそんなことを考えていた。

8月末。残暑と呼ぶにふさわしい、夏の最後の悪足掻き。
殺人的な暑さとは対照的に、彼女のいる研究室内は快適な温度が保たれていた。

「……………」

独り言さえ発さずに、ひたすら書類を見つめる。
いつか本当に穴が開いてしまいそうなくらい。

「………うん。」

ぽつりと呟いてから、右手の赤ペンをさらさらと動かす。

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