
キラキラ
第35章 屋烏之愛
「おまえ、そもそも誰なの」
この状況に負けないように、俺は自分を奮い立たせて、精一杯毒づいてみせる。
そうでもしないと、混乱したまま取り乱しそうだからだ。
すると、優雅な仕草で前髪をかきあげた那須は、にこりと微笑んだ。
「……櫻井さんの彼氏」
「……あ?」
冗談だろ?という顔をして見せたら、那須は小さく、
「……候補」
と、付け加えた。
しれっと言ってみせた那須は、口元は笑んでいるが、……その瞳の底は、暗い。
櫻井に好意を持っているのは、これまでの様子でなんとなく察することはできるけど……この表情は、まるで、櫻井への想いにとりつかれすぎて自分を見失ってるようにみえた。
だいたい、櫻井にはどうみても……大野がいるようにみえるけど。
俺がぐるぐる考えてる間も、那須は堰をきったように、ペラペラとしゃべり始めた。
「去年の、体育大会の日。俺のものになってもらおうとしたんだけど、断られたんだ……だから、もっといい男になって、一年後に迎えにくるって宣言した。だから来た」
だから来たって……。
俺は、頭が痛くなってきた。
ヤバイやつだぞ……恋は盲目とはいうけど、周りが見えてない一番ヤバイやつだぞ。
そうか……だから、大野があんなに警戒してたんだ。
「あんた……この学校の生徒?」
「一年前まではね。今は、別の私学に通ってる」
「……松本さんたちを知ってるの?」
「当たり前じゃん。クラスメートだったのに」
……今、二年ってことか。
「……来たぜ」
突然、背後から低い声が聞こえた。
