
キラキラ
第24章 バースト5
「早かったな」
玄関先で迎えてくれた昌宏さんは、愛用の紺のエプロン姿。
まさしく鯛と対峙していたのか、ふわりと、香る魚の匂いが、板前さんみたいだ。
奥のキッチンからは、出汁のいいにおいがする。
「うん。早く仕事終わらせたよ」
昌宏さんの会社は、ここから一駅の位置にある。
終業時間は同じだから、同時に会社をでても、昌宏さんの方が帰宅は早い。
最も、管理職という立場上、帰りはそんなに早くはないのが常だが。
「智に会える日だけは、何があっても5時ピタであがるんだ、俺は」
と、以前、笑いながら言ってた。
きっと、今日も5時になったと同時に煙のように会社から消えたのだろう。
部下たちは、さぞかし戸惑っていることだろうな。
「これ、あとで一緒に食べようと思って」
ケーキの箱を持ち上げると、昌宏さんは、にっと笑って、俺の肩を抱き寄せ、頬に素早くキスをした。
「サンキュ」
「……うん」
長い廊下を、のしのし歩いていく昌宏さんの後ろを、ドキドキしながらついていく。
いまだ、こういう不意討ちのスキンシップには慣れない。
キッチンに近づくにつれ、出汁の匂いが強くなってきた。
「……いい匂い」
鼻をひくひくさせて呟くと、昌宏さんは、土鍋を指差し、
「鯛めしも炊いてる。今日は、鯛づくしだぞ」
と、得意そうに言った。
料理が趣味の昌宏さんの料理はプロ級なのを知ってる俺は、嬉しくなる。
昌宏さんの手料理というだけでも嬉しいのに、鯛は俺の大好物。
ぐう、と鳴り出したお腹の虫に、昌宏さんは、もう少し待ってくれ、と笑った。
俺は、照れわらいをしつつ、手伝うためにコートとジャケットを脱ぎ、腕まくりをした。
小さなテーブルに所狭しと並べられた、鯛料理。
刺身はもちろん、鯛めしや、煮付け、塩焼きにいたるまで、そこらへんの店、顔負けのメニュー。
いただきます、と、目を輝かせて箸をつけるのを、昌宏さんは優しい瞳で見守ってくれてる。
俺が一口食べるまで、昌宏さんはにこにこして見ているのが常だ。
刺身に醤油を少しつけてぱくり。
「……美味しい!」
身はしまり、しこしこ歯ごたえもある。
甘く広がる鯛の味に、自然と笑顔になる。
昌宏さんは、ニヤリと笑って自分も箸をつけた。
まるで、「そうだろ?」とでもいうような自信満々な顔に、俺は頷いて、二切れ目の刺身に箸をのばした。
