
キラキラ
第30章 hungry 2
「はーい、おまちどお」
キツネ色をしたマフィンに、生クリームとフルーツが添えられた可愛らしいプレートが、目の前にコトリと置かれた。
「わぁ……うまそう」
「ふふ。櫻井くんは紅茶でいい?」
嬉しそうに、ヨシノさんが首をかしげる。
「あ……はい。ありがとうございます」
「さとちゃんは?カフェオレ?」
「ううん、俺もミルクティーがいいな」
「はぁい」
ヨシノさんが、再びフンフンと鼻唄を歌いながら茶葉の入ったキャニスターを手にとるのを見ながら、俺は温かい気持ちになった。
大野さんが、進路で揉めて、実家を飛び出すような思いきったことができたのも、この明るい人柄のヨシノさんありきだったからだろうな、と思う。
確かに、この人なら、追い返すこともせず、親身になって寄り添ってくれるだろう。
大野さんのご両親に、自分が預かるから、と宣言できるような男前な決断も、この人なら……と、思わされる。
生クリームをペロッと舐めて、顔をほころばせる大野さんを見て、俺は、良かったな、と思わずにはいられなかった。
だって、だからこそ、俺は大野さんと出会えたのだから。
いただきます、と。まだ温かなマフィンを手に取った。
かじると、ふわりとした食感の中に、チョコレートチップが入っていることにきづく。
「うまっ」
「うん、美味しい」
「そうでしょう?」
はい、どーぞ、とミルクティーの入った真っ白なカップを置きながらヨシノさんがにこやかに顔をだした。
「ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げた。
大野さんがモゴモゴ口を動かしながら、口を挟む。
「ヨシノちゃん、今日はなんかやんの?」
「ああ……六時から例のライブやるわよ。見ていけば?」
「ほんと?……ねぇ、櫻井、少し遅くなってもいい?」
俺は、キョトンとして、大野さんとヨシノさんを代わる代わる見た。
「……いいですけど……何かあるんですか?」
「ここは、ギャラリーカフェっつってさ。ああやって絵画や陶芸の展示したり、時々あそこのフロアで、ちっちゃなライブやったりするんだよ」
大野さんが指差すのは、店の一番大きなスペースにおかれたピアノ。
