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キラキラ

第30章 hungry 2


なんでも、今日はここのカフェの来店客から人気のある二人組が、ミニライブをするらしい。


「俺も、こっち来たばっかりの時に、初めて見たんだけど、すっごい良かったんだ。超かっこいいの。櫻井にも見て欲しくて」


「へぇ……」


俄然興味がわく。


……そんな風に言われちゃ、もう見るしかないよね?

少しでも長く大野さんと過ごしたい俺に、断る理由なんかどこにもなかった。



マフィンのプレートを綺麗にたいらげ、香りのいい紅茶を飲んでいたら、ふと、カウンター奥のヨシノさんと話し込む男性の姿が目に入った。


「あ、ほら来てる来てる。あの人だよ。今日の主役」


大野さんが、つんつんと俺の肩をつついて、小声で囁いた。


「へぇ……」


背の高い男性のようだ。

何気なく見つめていて……その後ろ姿と立ち居ふるまいに、ふと、何かが引っ掛かった。

カジュアルなコートと、ダメージ加工のジーンズ。


……格好は若い。


柔らかそうな黒髪に、眼鏡。


ん……?どっかで見たような横顔。


……すると、その人が店内を見渡すように、こちらに、顔を向けた。



「っ……!!」



俺は思わず、口に含んだ紅茶を吹き出しそうになり、激しく咳き込む。


「ちょっと……大丈夫?」


大野さんが、慌てて背中をさすってくれたけどそれどころじゃない!



「…けほっ…あの……けほっ……あの人が……?」


「うん、そうだよ。マサさんって言ってさー」


「マサさん!?……けほっ」


そのマサさんが、すっとこちらに視線を寄越す。


瞬間その眼鏡の、奥の目が大きく見開かれた。


俺も、きっと同じ顔をしてる。


……さかもっちゃんじゃんか……!!!


それは、まぎれもなく音楽の教師である坂本先生だった。

いつも、ジャージ姿か、シャツに綿パンみたいな姿しかみてないから、別人のよう。

俺は開いた口がふさがらなかった。

いや、趣味で歌を歌ってるのは、知っているけれど、まさか、こんなとこで遭遇するなんて!!

唖然としていたら、坂本先生は、しっ、と人差し指を口にあて、僅かに咎める目をして首を小さく振った。


……だ、黙ってろってことか……?


俺は、口をあけたまま、コクコク頷いた。



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