ビタミン剤
第15章 陽だまりの午後
エプロンを借りて、すこし疼く腰をさすりながら
キッチンに立って夕飯の支度に取り掛かる。
献立は簡単なものだけど和食にして、スパイスの愛情はたっぷり多めに入れておく。
夕方過ぎに帰って来たご両親を玄関まで出迎えたのは俺と海くんのふたり。
翔ちゃんは、
魂がどっかにぶっ飛んじゃってて幽体離脱状態。
「翔、お前なにを腑抜けになってるんだ。
こんなに美味い飯を前にして、和也くんの手料理は本当に美味い。」
「ありがとうございます、お義父さん。
お義母さん、勝手に冷蔵庫開けて食材使わせて頂きました。」
「とっても嬉しいわ
帰ったらこんな美味しい御飯が食べられるんですもの、舞もお料理の腕前はあんまりだし。
ほんと和也くんに毎日作ってもらいたいくらい。
翔はしあわせね、こんな美味しいお料理毎日食べさせてもらえて。」
「へ?…はあ、まあね
俺、今…めちゃくちゃ…しあわせだから。」
心ここに在らずのまんまの翔ちゃんの代わりにしっかりと家族のコミュニケーションもとっときますからね。
嫁さんとしての大事なおつとめだよね。
洗濯機と乾燥機を借りたことの御礼を言うと、逆に感謝されちゃった。
この部屋の昼下がりの出来事はナイショ。
目撃者は若干1名
黙秘権もなんにもない、無邪気な乳幼児
眼鏡の事を話したら、さっさと外して海くんを膝の上に乗せてデレデレで嬉しそうなお義父さんの顔が見れたよ。
ねぇ、翔ちゃん
俺たちにできない孫がいるって親孝行を海くんのおかげで体験できてるんだよ。
思考がぶっ飛んでるならそれでもいい
この家の温かな団欒は俺がしっかりと切り盛りしておくからね。
だから翔ちゃんには俺だけに溺れてて。