ビタミン剤
第20章 ウブじゃないアナタ
俺の眸がレンズで瞼がシャッターだとすれば
もう、随分とフォルダーが出来てるはずだ。
喜怒哀楽のどんな表情もとても豊かに変えて
見せてくれるこの人だけを俺の眸は
何年も何年も撮らえてきている。
俺の中の翔くんのデータは膨大な量になってて
今だってそうだ
背後から見える形の良い後頭部にすこしだけ
はねてるやわらかな髪の毛、
すっきりした首筋からの襟足ラインは俺だけが
見つめて触れることのできる領域だと思ってる。
そこにうっすらと赤い残痕は、よく見ないと
分からない程度に加減して吸い付いてるから
目ざとい女性スタッフからも指摘なんて
されたことは1度もなかった。
「もう、ちょっと潤溢れちゃうよ。」
左手で持ってたカップをテーブルの上に置き
振り返る顔には蕾がほころびはじめるような
すこし照れた愛らしい微笑み。
ああ、この顔も好きだ
また1枚記憶のメモリーが増えていく
左耳にくちびるで触れて、耳朶をパクッと
唇で挟んでピアス穴の名残りを確かめる。
高校生になった翔くんが俺の部屋で機械で
開けたピアス穴。
あの頃からずっと焦がれて惹かれてた。
「…んん、潤っ…ちゃんと…答えてっ」
「ごめんごめん
でも、ちゃんと考えたよ。」
「なぁに?」
翔だよってくちびるが形を作りかけたけど
そう言うときっと悲しむし、
たぶん心配かけるから余計な言葉は飲み込んで
ドラえもんって言っておく。