ビタミン剤
第33章 花浜匙(躑躅色)
彼はいつも彫刻細工のように
冷たくて美しい微笑で魅了してきた
見た目の派手やかさとは違って
その内面にはひどく繊細な優しさを内包していて
その部分を決してひけらかしたりしない。
なるべく視界に入れない様に
なるべく正面から見据えないようにして
ずっと傍に居てた。
見つめたら最後
きっと一目で虜になってしまうから
彼のパーツだけを見るようにしながら
やり過ごしてきた。
この気持ちはずっとずうっと封印したまま
だって彼には想いを寄せる人がいてたし
その人しか見つめていないから
とても分かり易い感情。
辞めたいですって
やりたくないですって
あの頃、正直に言えなくて
それが此処まで来ることができたんだ。
この気持ちも
あの頃からずっと飲み込んだまんま
永遠に封印したままで終わると思ってた。