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ビタミン剤

第39章 ノクチルカ


「ここで翔くんのリサイタルを開催したいね。
翔くんを押し倒して可愛らしい鳴き声を聴かせて
もらおうかな?」


「やっやだよ。」

「なんで?やっぱり観客がほしいの?
もしかしてさっきのトイレでかわいい鳴き声聴かせたかったとか?」


風磨の顔、
俺の身体の痕跡を見た時の驚愕する眸が
鮮やかに蘇ってきた。
潤の腕の中から離れようと身体を捩るとますます
きつく抱きしめられる。

「じゅ…馬鹿っ苦しい…」

「逃がさない。
2度目は無いからね、あれ…俺のセリフだよ。
今度うっかり襲われたりしたら、あいつの目の前で
翔のことめちゃくちゃ抱くよ。」



柔和に微笑む顔を見せるけど
潤の眸の奥の色は蒼白くどこまでも冷えた色。



「潤だけ…潤しか見てないよ。
もう、あいつの事なんて考えないで…
潤も、俺だけのものだよね」

「そうだね、ごめん。
じゃあ車の中で聴かせてもらおうかな。
翔のあまい鳴き声リサイタルをね」


汐風が吹き付けると波打ち際の夜光虫が波間で
妖しい蒼色を揺らしていく。
昼間は汚れた海面に漂う鈍く赤い澱みが夜の闇の中で煌々と輝く星空よりも美しく魅力するものに見えている。


いつかアイドルって魔法の期限が切れて
ただの中年男に成り下がる時
俺は潤の傍で輝いていられる?
死ぬ迄ずっと俺のリサイタルを開催して
潤の腕の中でアンコールを囁いてくれる?



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