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ビタミン剤

第41章 aventureはディナーの前に



不恰好にカットしたケーキを皿にのせて雅紀の
口許へと運ぶと、舌の上へとのせてくちびるが
合わさってゆっくり咀嚼していく。



「ねぇ、これバナナがはいってる?」

「うん、パティシエに頼んで生地に
すりつぶしたバナナを練りこんでもらったんだ。
あのね、バナナは花粉症にも効くんだって」

「めちゃめちゃ美味いよっ!
っていうか
俺、めちゃくちゃ愛されてるよね。
一口だけど翔の愛情がたっぷり伝わってくる」

「今日は。突然押しかけて…ごめん
ホントは雅紀のことが心配で
ほら、三日前すっごくくしゃみして咳き込んで
たから気になってて…
どうしても逢いたかった」


椅子から立ち上がって楽屋の扉の鍵を閉める
俯いた拍子にふたたび雅紀に抱きしめられる。


「翔、心配してくれてありがと
俺は大丈夫だよ。翔は元気にしてた?」

「…うん、ううん元気
でもあんまり…元気じゃなかったかも…」

「どして?」

「…足りてないもん」

「なにが足りないの?」

「……雅紀が…ぜんぜん足りてない」

「翔、ごめんね。すれ違ってばっかりで。」

「ううん、雅紀は頑張ってるんだもん」



雅紀の腕の中はとっても心地よくて
鞄の中に入れてある差し入れの水筒を思い出した
けど、今は雅紀と離れたくないから言わずにいた。



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