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無題

第1章 空から堕ちてきた天使


季節は肌寒い冬の時期。まだ体は布団の温もりを求めて体は縮こまっていた。
あと少し、あと少しだけと容赦なく訪れる睡魔の誘惑に寝ぼけている頭は二度寝をとるという答えを導き出した。

あと少し、あと少しで2回目の睡眠へ入ろうとした時聞き慣れた声に沈みかけた意識が浮上する。


「そろそろ起きないと遅刻だぞ」


のっそりとした低いアルトの声は、聞き慣れた父のもので誘惑に負けた脳を一気に覚醒へと導くのは最早毎朝の事だ。声にならない返事を返しつつ、布団の温もりを恋しく想いながら立ち上がる。

ひんやりとする室内の温度はまだまだ冬だと毎度の事ながら実感させてくれる。早く春にならないかな、と誰にいうまでもなく呟きながらのそのそと制服へと腕を通した。



「ご飯、それな」



リビングに入るとホットコーヒーを片手にスーツ姿の父が穏やかに朝食をとっていた。ひんやりする自室とは違いリビングは暖房は行き渡っているのかほのかに暖かい。


「ありがとう」


一言お礼を述べて向かい合わせの椅子に腰かける。今日の朝食は焼いた食パンと目玉焼きだ。ちなみに父は目玉焼きくらしかまともな料理が作れない為、慣れ親しんだ朝食だったりする。
バターとお気に入りの近所のパン屋で購入した苺ジャムをまんべんなく塗りながらも2人の間に会話はない。

父は無口なほうだ。あまり干渉しない。そしてそんな父に似たのか俺もあまり人と関わりあう事が苦手な部類に入る。クラスでも目立つわけでもなく、目立たないわけでもなく、
普通という言葉が似合うそんな一、普通の中学生だ。
しいていうならば片親という部分を除けばだが。



「じゃ、いってくる」



早々に朝食を済ませ慌ただしく家を出る俺を父は片手をあげ返事をする。その毎度となる光景を見届けながら足早に家を後にした。


すれ違う近所のおばさん、よく見かける通勤中のサラリーマン、それを他所に耳にかけたイヤフォンから流れる流行りの音楽。いつも通りの光景、いつも通りの通学路。
今日も変わらない一日だ。


そう、変わらない一日になる筈だった。



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