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無題

第1章 空から堕ちてきた天使




視界が暗転。次に目を覚ました時に一番最初に目に入ったのは酷く珍しい狼狽えた父の表情だった。


「ひかる、だ、大丈夫か」



今の状況についてけない頭はとりあえずと頭を縦にふる。それに酷く安堵した父の顔にまた違和感に似た何かを感じながら顔だけで周りの状況を確認する。
白いカーテンにしきられた白いベット、未だにアナログテレビが置いてある棚。ここは病院か?ーーと安易に想像した答えはどうやら間違いないらしい。


「どうして、お前まで,,,」


緊張の糸が緩んだのか、顔を破顔してベットに顔を埋める父の姿に俺は今更ながらに確信してしまった。俺の命は残り少ないのだとーー。




母は珍しい病気だったらしい。日本でもあまり病歴がなく、気づいた頃には手遅れだった。そんな在り来りなドラマのような話は簡単に俺と父から母を奪っていった。
いつもベットの色と似た顔色の、力なく笑う母の顔は未だに脳裏にこびり付いて離れてくれやしない。
幼いながらに悟ってしまったあの笑顔、母は生きる事を諦めてしまった。




「父さん、とりあえず仕事でしょ?戻った方がいいんじゃないかな?」



俺は大丈夫だから。と笑顔もつけてみせる。きっと大した事は無いと根も葉もない薄っぺらな言葉を並べる俺の顔はちゃんと笑えているのか不安になった。
だが、と渋る父に沈黙を還すと父は察してかそっと部屋を後にしてくれた。こういう時似た者同士はいいもんだ、と苦笑する。


ぁぁ、そっかぁ。オレ死ぬんだ。


ああ、笑いが止まらない。頬を伝う感触すら気づかなかった俺はきっとあの時の母の同じ笑顔をしている事だろう。


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